【道のり14】独立への道〈前編〉
美容院を独立開業するってどういう流れなのか。
考え始めてからは、まず本を買った。
小さなお店を開業する、というものと
美容室の開業専門の本を読み、
それになぞって[事業計画書]を作ることからスタート。
お店の名前、コンセプト、ターゲットとか
施術メニューや価格、セット面の数から
売上、返済計画など…
まだ何も決まってない中で、
ハッキリいって妄想に近い
「こうなったらいいな」
をレポート数枚に渡って書き出していく。
もちろんこの街で長年働いているので、
それなりのお店戦略などは考えていました。
都内では隠れ家的な1対1サロンが増えてきていて、当時はかなり【癒し】のブームだったと思う。そんなことや私だけのオリジナリティを盛り込んで、かなり良い事業計画書を書き上げた。
美容室で長年働いてる中で蓄積していた
『私の理想とする美容室像』
が強くあったので
それはもう考えるだけで楽しい作業だった。
そして次にとりあえず地域の
『商工会議所』に行ってみた。
場違い感を感じるくらい固い雰囲気の所で、
「なんの用?」っていう空気を感じる目線に負けず
「開業を考えてるんですけど…」
と言うと、ふーんという感じで
「開業の相談はそれに詳しい人が来る日に来て」と言われる。
そして改めてその日に行くと、簡単な説明の後
ペラっと1枚用紙を渡された。
事業計画書の内容の要点を書く場所と、
金銭的な計画を書く部分がある。
そこを埋めて、
神奈川だと横浜関内にある
『日本政策金融公庫』
に直接行ってそこで相談してと言われた。
要はお金を貸してくださいとお願いするのに必要な計画書を作成して持っていく必要があると。
しかし。
その用紙の【資金計画】部分を書くのが非常に難しい。
妄想部分ではなく、現実的な部分。
そもそもテナントも決まってないと家賃代も工事費用も分からない、さらに材料や器具代も運転資金も…すべてハテナな状態。
自分の頭だけでは書けない部分になったので、
お店に出入りしている代理店の営業さんをコッソリつかまえて相談することにした。
代理店さんは沢山の美容室や美容師と付き合いがある為、開業についての知識がある。
色々教えてもらい器具や材料費について理解した後、
テナントの情報をネットや街を歩きながら、気になった所の図面を見ては妄想し、良さげと思えたら不動産屋さんに見せてもらう。
美容室がダメなテナントや、水周り、ガス、エレベーターや階段など条件が合う所を見つけるまで平日夜は妄想と書類書き、休日は歩き回る。
テナントを見ても私だけでは分からない内装工事、配管工事等の業者も決めなくてはいけない。
もちろん開業が確定してるわけでもないのに、わざわざ来てもらって見積もりをお願いしないと事業計画書の費用欄を埋めることが出来ないのだ。
工事業者は3つ見積もりをお願いした。
①何でもやさんの大工さん(人のいいオジサンだけど大丈夫かな…)
②内装業者だけど美容室の経験はないけど安めの所(なんか理解度が微妙な発言が多い…)
③バリバリ大きな美容室の内装工事をしてる所。(そんな方にこんな小さなお店をお願いしていいのかって高そうだし恐縮してしまう感じ…)
それぞれの話を聞いて、
私よりも美容室の構造をよく知っている安心感抜群のバリバリの方にお願いすることにした。(結果とてもセンスよく、親切にしていただいたし、費用も想像よりは抑えられていた)
仮のテナント、仮の内装工事、仮の器具、
それぞれ全てが仮の金額。
その金額を記入して、
自分の手持ち金を頭金にして、
果たして借り入れができるのか?
できたらテナントの仮契約などもあるのでどんどん進まなければならないし、ダメなら全く無意味な数字となる。
それでこの数字でいいのか??
事業に必要な1/3(1/4だったかな?)は頭金でそれ以外を借入できるとか(事業種やその時の状況で借入条件は変わるのでこの当時の話です汗)
パンフレットには書いてあった条件だとこの出たまんまの数字ではきっと足りない。
どうすればいいんだろう??
…とりあえず持ってる資料、書類を手にし、熱く書かれた事業計画書の内容を語って、色々相談してこよう!
そしてなんとか融資してもらえる方向になればいい。
そう思って事業計画書や書類を大事に封筒に入れて、電車に乗り、久しぶりの関内へいざ!!
『公庫』に乗り込んで行ったのだ。
そのビルの中は銀行みたいな感じで、
番号呼ばれたらカウンターで用紙を見せる。
窓口の年配男性は
チラッと費用計画の数字を見て
「これじゃ、頭金が足りないから無理だよ」
と軽くあしらわれてしまってた。。
レポートなんて見向きもせず、
お金を貯めてから出直してって…。
そう、お金が沢山あれば簡単な話。
でも貯金をかき集めてもこれが精一杯。
親を頼ることもできない。
だからこそ何とかして欲しいと思っていたのに…。
…安月給で何百万円を貯めるのに
何ヶ月、何年かかるのか。
それまで独立は無理なのか。
自分の年齢的にも…
そんなにゆっくりしてられない。
でもこれが現実か…。
そもそも、ずっと妄想だ。
こんな所でこんな風に働けたらいいな、をただ集めただけなのだ。
たった1人の小娘が、
こんな素敵で贅沢な美容室を持てる訳がないんだよね。。。。
それまでずっと希望をもって
積み上げてきたものがガラガラっと崩れ落ちた。
いとも簡単に、窓口業務用語だけで…。
関内の薄暗くなった街を泣きながら歩いた。
駅の雑音すら聞こえなくなったくらい
ショックが大きすぎて…
家についてからも大泣きした。
お店を持つなんて
夢のまた夢だったのだ………。

〈後編につづく〉